平和学をはじめてみませんか。

平和学の学問的性格

1. 被抑圧者の視点

学問的系譜をたどると、平和学は、戦争のない世界をいかにめざすかを出発点としたために、国際政治学ないし国際関係論と密接な関係にある。しかし、国際政治学ないし国際関係論との違いは、国際関係において軍事力をはじめとするパワーの行使を常態と見る現実主義(リアリズム)に対し、徹底的に批判を試みてきた点にある。

リアリズムに対する批判は、国際政治学ないし国際関係論においても行われてきた。例えば、国家間における道義(morality)を重んじ、国際協調を求める理想主義(アイディアリズム)や、アクターの多元化を視野に入れ、軍事的安全保障だけではなく、経済や地球環境といわれる領域において国家間に共通利益が見いだせることから国際制度の成立する余地があることを明らかにするリベラリズムなどである。しかし、被抑圧の視点に立つ批判であるという点が、平和学では重要である。なぜなら、平和学では、「平和」は実現されるべき価値であると考えているからである。

2. オルタナティブを提示する構想性

こうして平和学は、単に現状を批判するにとどまらず、より望ましい社会のあり方を求めるため、例えば、人間本位のガバナンス(humane governance)といった構想を提示している。また、リアリズムの主要なテーマである安全保障の問題に対して、「人間の安全保障」という概念を生み出すことによって、リアリズムに対するオルタナティブを構想しようとしている。

3. 同時代性

平和学は、第2次世界大戦を契機にはじめられた、新しい学問領域である。

人類の歴史においてたえず見られた「戦争」をいかになくすかという問題意識から出発したが、1960年代にみられた南北問題や、1960年代後半から1970年代にかけて人々に問題として意識されるようになってきた地球環境問題をも「暴力」という観点からその問題解決を試みてきた。1980年代に入ると、民衆による平和運動の高まりが冷戦構造の崩壊をもたらした。

冷戦構造が崩壊すると、米ソによる全面核戦争の危険性から遠のき、冷戦時代に生まれた「平和学」はもういらないのではないか、という議論が1990年代初頭に起きた。しかし、エスニック紛争をはじめとする紛争は必ずしもなくなったわけでもない。むしろ、低強度紛争の起きる可能性は高まったといってよい。すると、「人道的介入」をいかになすべきか、といった課題が生まれる。

21世紀に入り、米中枢同時多発テロが起きると、アメリカは、単独行動主義に走り、有志連合をつのる形で、対テロ戦争やイラク戦争が起き、日本も、それに追随するべきだという議論が、政治家や、人々の間に正当性をもつようになる。しかし、このことは、これまで、日本が大切に守ってきた憲法に反するのではないか。少なくとも、権力者による権力の暴走を食い止めるための立憲主義という考え方をないがしろにしているのではないか。こうして、「平和学」は、新たな課題をつきつけられることになる。

4. 学際性

既存の社会構造に対する批判的検討および、人々の自己実現の機会を保障するための社会構造のあり方を構想していくためには、政治学だけではなく経済学や社会学、文学といった、人文・社会科学の所見だけではなく、数学や工学、医学といった自然科学の知識をも必要とする。平和学はよく医学にたとえられ、社会病理の克服、また病気に陥らないための予防といったアイディアをもとに学問を組み立ててきた。また、紛争発生のメカニズムを計量的に解析し、軍拡のメカニズムをゲームの理論を用いて明らかにするなどの試みがなされてきた。

しかし、批判的性格を帯びる平和学は、単に平和でない状況(peacelessness)に対する検討を加えるだけではなく、そうした状況を人々に伝えるための平和教育、そして、平和実現のために幅広い層の人々を巻き込んだ平和運動を展開する必要がある。時代と真正面から向き合う平和学の醍醐味は、こうしたところにこそ存在する。

5. グローバルな視点

最後に、グローバルな視点という点について考えてみよう。60年代から70年代にかけて、国際的相互依存が進んだといわれる頃から、南北問題が取りあげられてきた点はすでにみた。しかし、その後の南南問題の登場や、90年代における経済的格差の拡大は、国家や国境とは関係のないところでおきている。したがって、これまでの国家や国境にとらわれた問題解決の枠組みには限界がみえるようになってきた。このことは、地球環境問題をみればより一層明らかとなる。

他方、情報コミュニケーション手段の発達は、国際世論の形成もより容易となり、国家の制約によることなく、抑圧的な社会構造の存在を人々にアピールできるようになった。したがって、平和運動のあり方についても、これまでとは異なる運動展開が可能となる状況が生まれてきている。すなわち、抑圧的な社会構造に異議を唱えるアドボカシーや、問題を共有する人々が連帯することによって状況を自ら克服するエンパワーメント、それを支援する人々の活動が新たな展開を見せるようになってきており、こうした状況を分析する平和学にも新たな視点が求められるようになってきたのである。

 

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